東京高等裁判所 昭和58年(行ケ)135号 判決
一 請求の原因1及び2の事実は当事者間に争いがない。
二 本願意匠及び引用意匠の各要旨が審決認定のとおりであることは当事者間に争いがなく、別紙(一)及び(二)の両意匠を比較対照すれば、審決の認定に係る両意匠の基本形態が各点において共通しているものと認めることができる。
ここで、原告が争つている対向する一対の凹弧状部を形成している水平部を両意匠に共通な要素として把握し得るか否かにつき検討する。本願意匠では、対向する左右の水平部はくびれ部分を中心として凹弧状を形成しているのに対し、引用意匠では、右側水平部は凹弧状を形成しているが、左側水平部のうちくびれ部分よりL字状立上り部に延びる部分は湾曲度は弱いものの直線状を成すとまではいうことができず、その反対側に延びる部分は右側水平部の対応部分と同程度の凹弧状を形成しているものということができる。したがつて、引用意匠において水平部を形成する対向部は、本願意匠におけると同様円弧状部の延長であり、左側部分の凹弧状部の湾曲度の弱さにもかかわらず全体として連続した曲線による一対の凹弧状部を形成しており、両意匠を観察した者は、各水平部の形状をいずれも対向する一対の凹弧状を形成するものとみて、その間に著しく異別な印象を受けることはないものというべきである。
かように、両意匠は基本形態において共通しており、かついわゆるUクリツプの形状としては、右の基本的形態によつてまとまつた全体的意匠構成が形成されているものと認められるから、右基本形態における各部の類否が意匠の類否をわける支配的要素であると認めるのが相当である。
三 そこで、審決が指摘した両意匠の差異点につき、原告の主張に即しつつ検討を進める。
1 丸棒の太さについては、全体的な印象としては、本願意匠に比し引用意匠の方がやや細めであることは否定できないところである。そして、原告の指摘する各構成部分の比をみると、本願意匠においては太さに対し横幅はその約三・三倍、最長部はその約五・九倍、横幅に対し最長部は約一・八倍であり、引用意匠における右比率は順次約三・七倍、八倍、二・二倍であるが、これらの数値上の差があつたところで、これと丸棒の太さの差との相互関連において両意匠を対比してみても、原告が主張するように、本願意匠は太く短く、引用意匠はやせて長いという意匠的異別感を視覚上強く訴えるほどのものがあるとは到底認めることはできない。
2 本願意匠では逆L字状部の高さに対し最長部は約一・三倍、引用意匠における右比率は約一・七倍であるが、前同様かかる数値上の差異が視覚上著しい形状差を訴えるほどのものとは認め難いし、この差異に前記1の各差異を併せ考えて両意匠を観察してみても、原告主張のように、本願意匠はバランスある安定感、引用意匠はアンバランスでまとまりのない不安定感という印象を看者に与え、意匠的に異別なものを感得させるほど顕著な相違があるとはいい難い。
3 原告は、引用意匠では右側水平部の先端は丸棒を軸線に対し斜めに切断した楕円状の切口である旨主張するが、別紙(二)の引用意匠に徴し、到底そのように認めることはできない。もし、引用意匠において原告主張のような切断がなされているものであれば、引用意匠の平面図に近い別紙(二)の第七図の右側水平部の先端は切断面として斜めの直線状に記載されるはずであるのに、右第七図では楕円に近い円形状をなしており、そのことは右先端部分が楕円状平面ではなく表面がやや先細りの半球状に近い形状であることを示しているといえる(原告は成立に争いのない甲第三号証の第八図と別紙(二)の第七図との関係をもひとつの根拠として右のような主張をするが、右第八図は審決において引用意匠として対比されてはおらず、仮にこれを参酌するとしても、右先端部分が斜めに切断された形状のものであると認めることはできない。)。そして、引用意匠の右側水平部及び逆L字状部の各先端を別紙(一)の本願意匠の平面図のように近づけてみた場合に、逆L字状部先端が右に述べた右側水平部先端とは異なり円錐台形であるため、右両先端がともに円錐台形である本願意匠の右平面図におけるものとはやや異なつた印象を与えられることは否定しえないが、引用意匠の右側水平部の先端の形状も挿入を容易にするため先細の円錐状とされている点で円錐台形とそれ程異質の形状差があるものとはいい難く、意匠全体としてみると、各先端という極めて部分的な一部の態様の差に過ぎないものであるから、両意匠の右両先端の形状差から受ける印象は、それが全く別異なものと感得させる程強いものとはいえない。
4 次に、両意匠における末広がり状の態様をみると、引用意匠の左側水平部ではくびれ部より逆L字状立上り部に延びる部分の湾曲度が弱いが、両意匠の水平部とも全体として連続した曲線による一対の凹弧状部を形成していると認められることは前記二に述べたとおりである。そうであれば、引用意匠の凹弧状部前半部(円弧状部と反対側)によつて形成される末広がり部の態様が本願意匠のものよりやや狭小である感じは拭えないとしても、両意匠の末広がり部の態様につき視覚的に受ける異別感はさして大きくはないものと認められる。また、引用意匠の左側水平部の逆L字状立上り部に延びる部分は右側水平部より長く現わされているが、本願意匠においても引用意匠程ではないが、水平部の左右に若干の長短の差が認められる。したがつて、本願意匠においては原告主張のように全く前後左右同形の八の字形の末広がり状をなしているとはいえず、この点からも両意匠の差異はわずかな部分的程度に止まり、これを全く別異のものと認識する可能性は少いものということができる。
四 以上の認定によれば、両意匠は、型枠連結用Uクリツプとして、要部と認められる基本形態において共通し、その各部の差異点も看者に別異感を生じさせる程顕著なものではないのであるから、両意匠を類似のものとするに妨げになるものではない。なお、原告は、右基本形態はUクリツプの固有の用途、機能に伴う周知の形態で需要者の注意を引くことはない旨主張するが、意匠は物品の全体的形状における美観として看者に視覚的に訴えるものをいうのであるから、基本的形態が周知であるとしても、両意匠につき顕著な差異点が認められない以上、需要者は全体的にみて同じ印象をもつてUクリツプの形状である前記基本形態に注目するというべきものであつて、基本形態を共通する両意匠は全体として類似しているものといわざるを得ない。したがつて、本願意匠が引用意匠に類似するとの理由でその登録を拒絶した審決の判断に誤りはない。
五 よつて、本件審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求を失当として棄却する。
〔編註)本件に関する意匠は左のとおりである。
別紙(一)(本願意匠)
<省略>
<省略>
別紙(二)(引用意匠)
<省略>